黒田光一の写真を眺めるとき、私たちは暴力と静寂とがシームレスに繋がる瞬間を目の当たりにする。
瓦礫の散乱した解体現場、神聖なレリーフ、休日の公園、砲弾が漆黒の天空に描く軌跡。
黒田によって切り取られたそれらの風景は美しくも不穏な空気を感じさせるものであり、そこでは日常と暴力との間に、明確な境界線はもはや存在しない。
BALLISTICS(弾道学)――虚空の軌跡を描く弾道は、私たちの歩んできた、あるいは歩むべき道筋なのかもしれない。
AKAAKA
静岡、サンパウロ、東京、千葉、トロント、ニューヨーク・・・映画のコマ送りをみているかのように、場面が変わっては、時間差で撮られたアングル違いの風景が続き、そして合間にインサートされる暴力の痕跡と暗闇に走る閃光の画。相互の関係性なくして意味は成立しないなら、無意味が無限に連鎖する世界の自由もあり得るのか? AD中島英樹との共同作業により、挑発的な問いを見る者に喚起する希有な一冊に仕上がっている。
富田秋子 フォトグラフィカ(MdN) 2008 winter
阿佐ヶ谷、渋谷、吉原、茨城、沖縄、富士、上海、サンパウロ、トロント、ニューヨーク……。
個人的に写真を撮り始めてから今年までの10年という時間のなかで、写真家・黒田光一はさまざまな土地でシャッターを押してきた。
その作品を一冊にまとめた写真集『弾道学』は、そのまま黒田という写真家が持つ視線、その十年間の弾道の軌跡である。
市井の営みの風景。遠くから静かに眺めるように切り取られた軍事演習。『弾道学』のページをめくるたびに繰り返される日常と非日常の静かな交差は、直接的な説明など皆無なまま、しかしこの世界が持つ憎悪と美しさを描き出している。
「10年前くらいからあてもなく撮り始めて、それ以来のものです。
時系列ではなく、今現在の自分の意識の流れに沿うように並んでいて、撮影フォーマットもまちまちです。
異なるさまざまな要素が混在しているという印象かもしれませんが、自分の中ではすべてが分かち難く、ある一つの線で結ばれているものです。
ミリタリーが趣味でもない自分が武器、兵器を撮り始めたのは99年からで、日常的な気分や美的な思惑などでなく、現実的になにを撮るべきなのかと考えていた時期でした。
時代的には大きな暴力の風が感じられ、時と共にみるみるあからさまになっていきます。
動物としての身体能力を超えた強力な力を開発し計画的に他者/精神を殺していく。集団の意識を抱え込んだ暴力でありながら、その先端においては個人の剥き出しの暴力でもある。武装~戦闘という一連の行為は、ほかの生物にはない、もっとも人間らしい営みのひとつです。
その根底に潜む“憎悪”や“怖れ”はフィルムには写らないけど、もしかしたら、美しいとさえ言える武器のフォルムや発射された閃光そのものに結実しているのかもしれない。
この10年、さらに世界は複雑になったとも言えますが、しかしそのこじれが極まるほどに、むしろ人々の精神の有り様は単純化へ、空洞化へ向かっているのでは、とも感じます。
人間が本来持っている粗野で狡猾な暴力性が、夢のような進歩に反比例するかのように剥き出しになってきているのではないか。
ここにあるのは、そんな世界と自分自身の居心地の悪さとのバランスをとるように、流れに抗うように、ある光を見いだすように顕われてきた写真なのかな、と思っています」
Switch 2008 OCT
■2008年11月30日(日) 19:00~21:00(開場18:30~)
※終了しました
■会場:青山ブックセンター本店内・カルチャーサロン青山
■定員:100名様
■入場料:500円(税込)電話予約の上、当日ご精算
■電話予約&お問い合わせ電話: 青山ブックセンター本店 03-5485-5511
■受付時間: 10:00~22:00
(※受付時間は、お問い合わせ店舗の営業時間内となります。御注意下さい。)
■受付開始日:2008年10月31日(金)10:00 ~
トークショー終了後にサイン会を行います。
<イベント内容>
今秋、作品集『弾道学』(赤々舎)を発表した写真家の黒田光一。その出版を記念して、自殺サークル』『奇妙なサーカス』『紀子の食卓』等数々の名作を世に送り出し、『愛のむきだし』公開を間近に控えた映画監督・脚本家の園子温をゲストに迎え、トークショーを行います。司会は赤々舎代表の姫野希美。トークに先立ち黒田光一製作のスライドショーを上映予定。
<プロフィール>
黒田光一 (くろだ・こういち)
1968年、栃木県生まれ。幾つかの職を経て98年頃から本格的に写真を撮り始め、武器/武装をテーマとしたシリーズ「ARMS」を99年から撮影、国内外の批評誌等に発表する。また同年、坂本龍一のオペラ公演「LIFE」アートブック、2000年のISSEYMIYAKEインターナショナルキャンペーンへ作品で参加。以降、雑誌等でポートレートを数多く撮影する。2005年にはart &
river bank(東京)にて個展「ballistics(弾道学)」、私家版の写真集を製作する。園子温監督の映画作品では「紀子の食卓」、「愛のむきだし」等でスチール/ポスターを担当。他にオダギリジョ-写真集「four years ago」(リトルモア)などがある。
園子温 (その・しおん)
1961年生まれ、愛知県出身。17歳のとき詩人としてデビューし、1987年に『男の花道』で、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)のグランプ リを受賞。代表作には、海外での評価が高い『自殺サークル』(01)などがある。最近は、テレビ朝日系列の金曜ナイトドラマの「時効警察」(06)の第4
話及び第6話に脚本と演出で参加する。『奇妙なサーカス』(05)はカナダのファンタジア映画祭で作品賞受賞、『紀子の食卓』はカルロヴィヴァリ国際フィ ルムフェスティバル特別賞賛賞及びFICC受賞、プチョン国際ファンタスティック映画祭観客賞&主演女優賞受賞などと国際的な評価も獲得